カラリパヤット KALARIPPAYATTU とは何か
カラリパヤットはインド亜大陸南西端。現在のケーララ州[KELARA]に伝わる武術体系です。
英訳されると、warroir's prelimnary excerciseとされます。この意味は「戦士のための前段階的訓練。」または「準備運動」とされます。この訓練体系の主眼は骨盤部への積極的アプローチが特徴です。
カラリパヤットには北式、南式の二式(付け加えると両方を併せた中央式もある)があり、双方共通点はあるのですが、元来カラリパヤットと呼ばれている物は北式を指し、南式は元来「アディタダ」[ATITADA]と呼ばれる別形式のため、この項では北式をカラリパヤットと呼ぶことにします。(いずれにしても師家により若干の違いが生じます。)(筆者は北式カラリパヤットを1993年より2004年まで合計滞在年数約3年 ケーララ州トリヴァンドラム市 CVN KALARIのC.V GOVINDANKUTTY NAIR師匠 及び実子 G.SATHYANARAYANAN先生 その他先生の下で就学していました。)
カラリ[KALARI]とは道場、及び寺子屋の意味で、かつてはそれぞれの村の主要な寺院に付設されている池と同様にその数ほどあったとされ、武術の修練の他、神様を祀る信仰の場。読み書き、算数を教える機能を果たし、また家伝の治療法を施す医院として地域に欠かせない施設であり、それを修めた師匠はグルッカル(GURUKKAL)と呼ばれ尊敬を受けていました。
パヤット[PAYATTU]は訓練、武術、体操を意味します。
カラリパヤットにはカラリ・ムラ(KALARI MURA)と呼ばれる掟、決まりがあり、それに沿って通常稽古が進められます。
まず最初には、八種の動物の名を冠したポーズ(象、馬、獅子、猫、魚、蛇、猪、鶏)の習得、これによって足の置き方、姿勢を覚えます。それに並行して、足の振り上げの稽古(直、斜め、外転、内転、半転、座など)を習得してから、メイパヤット(MEYPAYATTU)と呼ばれるポーズと足の振り上げなどを連続させた”型”の習得に入ります。「MEYとは体の意味。」
またこの訓練法は、柔軟性、バランス感覚を養うことはもとより、非常な持久力も養われ、同時に跳躍力も養うという、世界中に現存する古武術の中でも特別な形態を存続しています。
徒手による稽古をある程度習得すると、次に始まるのが籐製の長さ1.5メートルほどの細い棒(直径2センチほど)の稽古を教えられます。この細長い棒を使って、体使い、棒さばきを教わります。
続いて、長さ50センチほどの短い棒を教わります。
そして、次の段階は鉄製の短剣。そして剣と盾の稽古に順を追って入ります。
短剣術は相手の武器を奪い取る技も含み、剣と盾は右に剣を持ち相手を突き、斬り、左に盾を持ち身を防ぐ、左右の手の使い方を異ならせ、昔においてより実戦的な予備練習、想定練習となります。
そして、大きくて重い棍棒、槍などを教えられますが、
もっともカラリパヤットを語る上で特徴的なオッタ、ウルミという武器を高段者は学びます。
オッタは全長60センチほどの柄、鍔を持った木製の短剣で、ゆるやかなS字状の曲線を描き、先端は丸く膨らんだ形をしています。
この武器は歴史上一度も実戦の舞台に上がったことがないにもかかわらず、カラリパヤット全ての「精髄」を含んでいると言われている術で、カラリパヤットがいかに理論から成り立った武術であることを物語っています。
そしてウルミは柔軟な鉄鋼製の刀身1.5から2メートルの剣で、通常丸めたり、腰に巻いたりして携行され、熟練していないと自分の身を切る危険な武器です。
この武器は歴史に頻繁に登場し、カラリパヤットの武者を語る上で欠かせない武器です。
さらに、布を使った捕り物とも言うべき格闘術(この地方の男は正装として肩から1メートルほどの布をかけて歩きました。)及び徒手格闘術、主に相手の武器を奪う術。マルマ(急所、ツボ)攻撃法も稀に伝授されます。
最後に師匠となることを選ばれた者に対して、治療術(マッサージ法、整復法、薬学)を伝授します。
このことは生計を立てる上でも、独立することを許す非常に特別な段階です。
(ちなみに筆者は1999年より、鍼灸マッサージ師を生業としておりますが、2004年故C.V.GOVINDANKUTTY NAIR GURUKKALより外国人としては非常に稀で、また師の最後の伝授を頂く機会に恵まれました。)
これら、武器術、医術は由来の多くはそれぞれ「ダーヌル ヴェーダ」[DANUR VEDA](弓学)そして「アーユルヴェーダ」[AYUR VEDA](生命学)という、北インドより伝わったアーリア バラモン階級の知識、及びそれに並行してヒンドゥー秘教タントラ[TANTRA]哲学と土着のドラヴィダ薬学、戦闘法の融合により長い年月をかけて成立しました。