「気付いていない」
「真実を知ることは必ずしも良いことだとは言えないもんな。
あの霊も、あのままの方が幸せなのかもしれない・・・」
・・・私の友人「K」が語ってくれた体験談を紹介致します。
Kが高校生の頃です。
その日、進学塾に通っていたKが帰路に着いたのは12時近くでした。
講師に色々と疑問をぶつけていたらすっかり遅い時間になってしまったそうです。
自慢のマウンテンバイクにまたがりKは国道を走り始めました。
交通量も少なくなっている為、信号も無視して風を切って疾駆していきます。
その頃は暑さが和らいできた10月、身体を通り過ぎていく風がとても心地良かったそうです。
塾で使いすぎた脳みそがクールダウンしていく感覚に浸って走っていると、左カーブに差し掛かりました。
・・・すると、前方に誰かがうずくまっているのが見えました。
男性が道路の車道側で、歩道と車道の間のガードレールに背をもたれて座り込んでいる格好です。
具合でも悪いのかと思い男性を眺めていると、男性がゆっくりと立ち上がりました。
「あ!」
Kは思わず声をあげました。
男性は全身血まみれだったのです。
Kは思わず男性の傍で自転車を飛び降り声をかけました。
「大丈夫ですか!?救急車を呼びましょうか!?」
・・・しかし、40歳前後と思われるその男性はKの問いかけに反応を示しません。
「・・・あの、血が身体中から出てますよ!病院に行きましょう!」
・・・男性は相変わらず前方をジッと見つめたまま立ち尽くしています。
すると、男性はドサリと座ったかと思うとブツブツ喋り始めました。
「ダメだなぁ、まだダメだ。これだけやってるのに、どうして・・・」
男性は残念そうな顔をしながらズボンのポケットをまさぐり、血だらけのタバコのケースを出し一本引き抜き
口にくわえました。
Kは、全身に大怪我を負ってる筈なのに何でもないようにタバコを吸う男性の姿に声を失いました。
『・・・どういうことだ?怪我をしてるんじゃないのか?』
Kが不審の眼を男性に向けていると、男性がKに向かって話しかけてきました。
「・・・僕はさぁ、一ヶ月前にここで事故を起こしてね。僕の運転する車が女の人を”はねた”んだよ。
・・・まだ若い女の人をね。
僕は一命を取りとめたんだけど、その女の人はダメだったんだ・・・」
そう言うと男性はタバコをくゆらし暗い車道に目線を移しました。
Kは男性が何を言っているのか分かりませんでした。
もし車で事故を起こしたのなら今現在の話でないとオカシイと思ったからです。
そうでないと男性が全身血だらけでいる説明がつきません。
Kは男性の顔を見つめながら自分なりに話をまとめてみました。
男性は今、この瞬間に車で事故を起こし若い女性をはねたのだけれど、肉体的、精神的なショックのために
事故を一ヶ月前のこととして脳が処理をしてしまったのだと。
・・・でも、それでもやっぱり辻つまが合わない。
まず、事故を起こしたと思われる車両がどこにもない。それに事故が起こったような痕跡が路上に残っていない。
そして、はねられたと思われる女性の姿がどこにもない・・・
Kが困惑の表情を浮かべていたからか、男性が軽く微笑みながら話しかけてきました。
「・・・僕が全身血だらけだから不思議に思っているんだよね?・・・これは僕にも分からないんだ。
あの日女性をはねてしまってから身体中に血がまとわりつくようになったんだ。僕の血じゃないんだよこれは。
・・・多分、あの女の人の祟りだと思うんだよね・・・」
Kは段々と怖くなってきました。この男性は普通じゃない。
男性は話を続けます。
「・・・だから、許してもらおうと思って毎日ここへ来てはお経をあげたりしているんだけど許してくれない・・・
それどころか彼女が向こう側に現れて怖い顔をするんだよ・・・ホラ・・・」
そう言うと男性は反対車線の方を指差しました。
Kはビクリとしてその指差すほうに視線を向けました。
すると反対車線の中央辺りに、身体全体のバランスの悪いクネクネとした女性らしき者が立っていて
鋭い眼光をこちらに向けていました。
「わああああ!」
Kは自転車に飛び乗ると一目散にその場から逃げ出してしまったそうです。
・・・後日、Kはあの男性のことが頭から離れなかったので事故のことを調べてみたそうです。
すると驚くべきことが分かりました。Kの腰は抜けてしまったそうです。
ある日の夕方ころ、某地域の某国道で男性が運転する車が女性をはねてしまうという事故は確かに存在していました。
スピードを出し過ぎた車がカーブを曲がり切れず、反対車線に飛び出してしまったそうです。
発生日時もあの男性が言ったとおり一ヶ月ほど前に。女性は即死だったらしいです。
しかし、その事故で亡くなったのは女性だけではなくもう一人いました。
それは、事故を起こした車を運転していた男性です・・・Kが言葉を交わしたあの男性です。
・・・彼はすでに死んでいた人間だったのです・・・
Kはあの日、車にはねられて亡くなった女性の地縛霊だけではなく、
その車で事故を起こして亡くなった男性の地縛霊も見ていたのです。
・・・男性は自分の死に気付いていないのです。
自分の死に気付かずに、地縛霊と化してしまった女性に謝り続けているのです。自分も地縛霊になってしまっているのに。
男性が女の人の祟りだと言っていた全身の血も、彼自身の血なのです。
女の人が許してくれようと許してくれまいと消えることはないのです・・・
「・・・あれから、俺は塾も辞めてあの道路を通らないようにしたよ。だからあの男性の地縛霊が
どうなったかは分からない。でも、俺としてはあの場で女性に謝り続けていて欲しいと思う。
・・・だって、その方が幸せだと思わないか!?」
Kはこう私に話してくれました。・・・私も、男性には謝り続けていて欲しいと思います。
でも、本当にそれでいいのだろうか?とも思います。皆さんはどう思われるでしょうか・・・
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