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歩 く
− 階 段 ・ ジグザグ ・ 尾根上の沢 −
影響の規模(ひろがり) ●  1人が登山道を歩く限りでは、影響が大きいとは言えない。
影響の持続性(時間) ●●● 荷重がかかると土は締め固まり、土の質によっては二度と元には戻らない。
潜在的リスク ●●● 歩く人数が多いほど、時間が経つほどに水の影響を受けやすくなる。

 ある講習会で、水が土砂を運ぶ力についての話しがありました。
 水の流れの速さが2倍になると土砂を運ぶ力は64倍(流速の6乗に比例するという意味だと思います)になると言います。
 これをふまえて、話を進めます。


 山に登るとき、登山道が階段になっていて「歩幅が合わずに登りにくい」、「登山者のことも考えずに登りにくい階段ばかり作って…」と感じたことはありませんか。
 私も以前はそうでした。 ところが違うんです!。


 水の流れは傾斜のきつい場所で速くなりますよね。水が浸透しにくい堅い地面だったりするとよりスムーズに流れてしまいます。

 水の流れを遅くするためには、単純に考えれば傾斜をゆるめてやればいいわけです。流れに対して直角に障害物を造ったり、階段状の構造物で水を水平方向に逃がす、などの手法があるそうです。 大規模なものでは各地の砂防ダムや入道ヶ岳北面の北面、或いは、千枚田に代表されるような耕作地などが、この例でしょうね。

 登山者が通ることで踏み固められて水が浸透しなくなりがちな登山道。(すべてに当てはまるわけではないと思いますが)階段の多くは、実は水が流れる速度を遅くするのが目的だというのです。人を登らせることが主たる目的でないのなら、登りにくいのもうなずける話しです。

 ところが、人間は無精な動物、いかに山に登る体力があるとは言っても最小限の力で登ろうとする性質があるようで、階段を避けて脇の斜面がメインの登山道のようになっているところも少なくありません。
 せっかく流れが緩くなった水が、階段脇の「溝」を流れるようになって再び加速し、土砂を持っていってしまうわけです。





段差が大きい階段には、必ずと言っていいほど脇に踏跡が付き、地面が削られていく。





三重・岐阜・滋賀3県境に位置する三国岳への登路の途中にあるワサビ田跡。
耕作をやめて久しいこのワサビ田は相当な急斜面に作られているが、平成16年の度重なる台風や豪雨に見舞われても、石積みにはほころび一つ見られない。

水が流下する速度をうまく抑えている結果と思われる。

 藪漕ぎで、古いルートを探しながら歩くことがあります。峠などは良く保存されています。これは、浸食を受けにくい尾根上だからこそ、いつまでも面影をとどめているのだと思います。
 その他、ジグザグ道や斜面を水平に横切るトラバースルートなども、意外とよく残っていたりします。対して、谷を渡る所などは必ずと言っていいほど道はなくなっています。
 前述の通り、水の流れる早さによって保存状態が変わってくるわけです。


 ところで、一般登山道のジグザグ道には、ほぼ必ずショートカットした道が付いているのをご存じでしょう。これらは、元気者が直登・直降下した結果できたものの他、春先の残雪の上を尻セードで下ったところがそのままショートカットとなってしまうなど、いろんな原因があります。

 言うまでもなく、水は高いところから低いところへと流れますから、より早く流下することが出来るショートカットに引き込まれ、やがて溝となり、本来の登山道を掘り取っていく事になります。






写真は藤原岳大貝戸道・聖宝寺道の8合目〜9合目の模様です。
途中のジグザグに付けられたショートカットした道筋が、平成16年に多く上陸した台風の大雨でえぐられて、写真以上に惨憺たる状態になっています。

 鈴鹿:鎌ヶ岳などに登られた方はご存じだと思いますが、登山道が深く掘れてまるで溝の中を歩いていくような所がありますね。雨の日などは、尾根道なのに沢歩きをしているような目に遭うこともあります。

 溝が掘れるメカニズム、順を追って考えると次のようになります。

人が歩くようになると、地面が固くなるとともに、植生や表土が剥がれて周囲より低くなる。
→地面が固くなると水が染みこまなくなるとともに、水は低い所に呼び込まれる。
→水が染みこまなくなると、呼び込まれた水は地表を流れるようになる。
→水が地表を流れるようになると、地表にある土をいっしょに連れて行く。
→特に、傾斜の急な所では、年月が経つと深い溝となりやがて沢のようになる。
→沢は巾を広げ、周囲の斜面や内部の岩をも巻き込んで崩壊が始まる。


 鎌ヶ岳に武平峠から最短距離で登れる登山道の頂上直下。鎌ヶ岳北面の胸突き八丁では、鎖を踏みつける状態で留まっている岩があるなど、いつ落石が起こってもおかしくない危険な状態になっています。露出してしまった岩を含め、崩壊が重なって年々荒れがひどくなっています。




 毎年雪が融けるたび、大雨のたびに、岩の配列が変わる。設置してある鎖の上に岩が乗っているのを見ることもある。

 この日は、剥がれたばかりの岩肌が新鮮な色をしているのを見た。そして、5mほど下に、剥がれ落ちた岩がとりあえず留まっている。


 共通して言えることは、人が歩く事によって水が呼び寄せらるという事です。悲しいことに、すべての登山者がこの原因になっているのです。

 道普請などを行うことも一つの対策でしょう。しかし、本来、山という場所は人の手が入らなくて当たり前の所なのですから、私たち登山者は、道普請を当てにする前に、影響を軽減しなければならないという意識を持つことが大切です。

 登山者1人1人が心がけるべき事はさして難しいことではありません。登山道を忠実に辿ること。積雪期でも雪解け後にルートとして定着しないように過剰なはしゃぎ方をしないこと。


 山に限らず地球環境の改善は1人1人の意識改革なしには成り立ちません。みなさん、気づいたことから、そしてできるところから始めましょう。

H16.08.06
藤原岳の写真を追加 H16.11.07
ワサビ田の写真を追加、表現(例示)を一部修正 H17.12.18
鎌ヶ岳胸突八丁の写真を追加 H20.06.01