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ネギとデザイン
 ネギの切り方で味が違うことは皆さんご存知だと思います。たとえばラーメンに大量の白髪ネギをのせて、ネギラーメンというメニューが有りますが、このネギをぶつ切りか、輪切りにしてのせたら、たとえ水でさらしてあっても異質な料理になってしまいます。しかし、調理がどうであれ、この食感も食味も違うネギは、栄養の点では何ら変わることはありません。
 ここでネギに手を加えた事と、建築のデザインを、強引に比較したいと思います。
 今、住宅の問題として大きく取り上げられている事柄に、バリアフリー、シックハウス症候群、健康住宅、省エネ住宅、高気密高断熱住宅などがあります。これらは具体的に人の生活に利害を及ぼす事ですから、決してないがしろに出来ることではありません。これは、ネギが農薬に汚染されていないか、ハウス栽培でエネルギーを浪費していないかという視点と似ています。
 話は変わりますが、住宅では和室の床柱、欄間、使用木材などがその家の「格」を決定することは良くあります。今は洋風住宅が多くなっていますので、それらの価値にこだわらない人も多くなりましたが、一部では厳然と評価の対象となっています。もちろん、統制のとれた和室の内装は、厳選された銘木でないと納まらないことは事実です。 素材の優劣は、仕上がりの優劣につながりますから、吟味は重要な事です。しかし、材料主義に陥ると、そこで安心してしまって、手を加える(デザインする)事によって新しく生み出される価値観に目がとどかなくなります。栄養と安全性と、量が満ち足りても、それがそのまま食文化にならないことと同様です。住宅の性能や素材は良いに超した事はありませんが、住宅の建築物としての文化は、安全、健康、良質素材だけで成り立つ訳ではありません。
 もちろん、その材料が「気分」を演出する手段、あるいは「自己実現」の手段である場合は別です。
 自動車を購入する場合、燃費やスピードといった性能だけが選択肢にならないことと同じです。自分に合ったサイズ、自分らしさを表現できる所有の充足は自動車選びの重要ファクターです。
 実際に走る可能性の無い最高速度や、走行に何の影響も無いスタイリング、カラー、アルミホイールなどという個別アイテムへのこだわりなどが購買の動機付けになることを皆さんはすでにご存知です。
 合理だけでは「気分」を生み出すことはできないということです。
 つまり、ネギが調理によって表情を変えることを認め、栄養価だけで論じられない事が理解できるならば、同様に住宅を性能と材料だけで考える事が、いかに片手落ちか分かって頂けると思います。
 デザインとか文化といった事柄の根本は、この様な考えから成り立って、美学や手法として確立しているのだと思います。
 一方、安全、健康、良質素材を保証する戦略をとりながら、量産デザインや消耗されるデザインで、促成栽培の様に生み出されている現在の住宅建設の状況に、文化としての危機感を持っているのは、私だけではないと信じています。
 ここが自動車のような耐久消費財と住宅が一線を画する部分です。
 住宅デザインに限って私見を述べれば、匿名性のデザインでなく、実名性のデザインを心がけるべきだと考えています。それは、あなたのためだけのデザイン、あなたの住む場所のためだけのデザインということです。
 ネギを嫌いな人も好きな人も居て、ネギはネギということです。
 これが「持ち歩けない文化資産」である住宅の負うべき命題だと考えています。
 平たく言えば、施主が栄養士の作る料理を望むかシェフや料理人と呼ばれる人の料理を望むかの差だと思います。
 満腹感も栄養も双方で手に入りますが、その差になっているものがデザインの本質だと思います。
 住宅建設を不動産取得とだけ考えないあなたにとって、設計事務所があなたのシェフの役割を果たします。
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